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代表取締役の就任承諾と予選決議のタイミング─“就任前の代表選定”は認められるか?

代表取締役選定と就任承諾のタイミング

取締役の改選に合わせて代表取締役を再選定する場面では、「就任承諾のタイミング」と「代表取締役の選定決議の順序」について、意外なほど多くの実務担当者が戸惑います。
実際、あるクライアント企業のご担当者から、次のような質問が寄せられました。

「非取締役会設置会社の定時株主総会で取締役を改選しますが、同じ総会で新代表取締役の選定もしたいと思っています。
この場合、代表取締役に選定される人の“取締役としての就任承諾”がまだ完了していないのですが、選定してもよいのでしょうか?」

このような“取締役就任前の代表取締役選定”は、いわば「予選(条件付き選定)」にあたります。
この問題は、取締役会設置会社か否か、定款の定め、決議の順序などの条件によって結論が異なるため、判断には注意が必要です。

代表取締役の「予選決議」はいつ許されるのか?

代表取締役を選定するには、その候補者が取締役に就任していることが前提です。
したがって、原則として「まだ就任していない取締役を代表取締役に選定すること」はできません。

しかし、実務上は「予選決議(条件付き選定)」という形で、定時株主総会や取締役会の当日中に就任する前提で代表者を先に選定することも行われています。
このようなケースでは、「取締役として就任することを条件に代表取締役に選定する」旨を明示しておけば、法的にも有効とされています。
特に次のような状況では、予選が認められるとされています。

・定時株主総会で取締役を選任し、その就任を前提として代表取締役を選定する
・取締役会設置会社において、全員が重任の場合、改選前の取締役会で予選決議を行う

ただし注意すべきなのは、新任取締役が加わる改選の場合には、旧構成の取締役会で代表者を予選することは原則認められないという点です。
この点については先例(昭和41年1月20日民甲271号)でも示されており、例外は非常に限定的です。
したがって、改選を伴うケースでは、就任承諾が正式にされた後に代表取締役の選定を行うのが無難です。

予選決議を行う場合の議事録の書き方と実務の工夫

代表取締役の予選を行う際には、その前提条件があいまいにならないように、議事録の記載方法に注意を要します。
とりわけ就任前の取締役を代表に選定する場合には、「あくまで就任を前提とした条件付き決議」であることを明示しておく必要があります。

たとえば、次のような記載例が実務上用いられています。

【議案】代表取締役選定の件
次回定時株主総会において取締役に選任された場合を条件として、甲野太郎氏を代表取締役に選定することについて審議の結果、満場一致をもってこれを承認可決した。

また、これと併せて就任承諾のタイミングも議事録上で補足しておくと、法務局への説明や後日のトラブル回避にも役立ちます。
代表取締役選定と同日の就任承諾であることを確認し、下記のような文言を添えるのが一般的です。

・上記のとおり代表取締役に選定された甲野太郎氏は、本取締役会に出席し、就任を承諾した。

さらに、取締役会設置会社の場合で、重任のみの改選であれば、旧構成の取締役会での予選も可能とされており、その場合は「重任を条件とした選定決議」とすることで実務に支障なく処理できます。

条件付き就任と代表選定──トラブルを防ぐために必要な視点

実務では、「同日に選任された取締役を代表取締役に選定したい」という場面は珍しくありません。
しかし、このタイミングを誤ると、代表取締役の選定効力に疑義が生じたり、登記段階で補正を求められるリスクもあります。

実際、私たちがサポートしたある会社では、次のような事例がありました。

定時株主総会で新任取締役A氏を選任し、その直後に代表取締役に選定。
ところが、A氏の就任承諾書が別日付で作成されていたため、法務局から「代表取締役の選定時点で取締役に就任していたことを証明せよ」との補正通知が届いた。

このようなケースでは、「取締役の就任承諾」と「代表取締役選定」の前後関係を明確にしないと、形式上の不備とされてしまう可能性があります。
したがって、以下の点を押さえることが大切です。

・就任承諾書の日付は、代表取締役選定日と同日に揃える
・予選決議をする場合は、「就任を前提とする旨」を明記する
・新任取締役が欠席する場合、あらかじめ就任承諾書を取得しておく

とりわけ、予選の活用は例外的であることを忘れず、「その日のうちに両方完了すること」が見込めない場合は、あえて代表選定を後日にずらす選択も有効です。

「選任された者が取締役に就任してから、はじめて代表者に選定できる」
この大原則に立ち返りながら、実務を整えていくことが、確実な登記とコンプライアンスの第一歩といえるでしょう。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、代表取締役の就任承諾と予選決議のタイミングについて解説いたしました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

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